葬送のことをあらかじめ用意しておくのは
縁起が悪いといわれる。
しかし、
不意に訪れる不幸に対して
準備なしに対応することは容易ではない。
かっては他家の葬儀の手伝いをする機会も多く、
またしきたりにくわしい年寄りが家族の中にいたので、
急な弔事にも対応できたが、
いまではそうした機会もなく、
頼れる人も周囲にはいないことが多い。
これに代わって葬儀社が
実務全般を担ってくれるようになったのだが、
葬送についての基礎知識がなければ、
そうした人たち(業者)と上手につきあって
「よい葬儀」
を行なうことはできない。
そこで第一部のまとめとして、
最低限知っておきたい葬儀の常識を述べておくことにしたい。
①どの宗旨、どこの寺院で葬儀を行なうか
葬送に関して、
まずかならず知っておかなければならないことは、
家の宗旨である。
すなわち、葬儀は仏式で行なうのか、
神道式で行なうのか、
あるいはその他の宗教
(キリスト教・仏教系新宗教・神道系新宗教など)
に従って行なうのか、
仏式であるなら、
何宗の何派に属するかを確認しておくことである。
よく
「うちはたしか浄土真宗だった」
「真言宗のはず」
といった人を見かけるが、
同じ○○宗に属していても派が違えば
(たとえば、浄土真宗の本願寺派や大谷派、
臨済宗の妙心寺派や建長寺派、
真言宗の高野山真言宗や真言宗智山派など)、
葬場の設えも異なってくるし、
葬儀の次第も違ってくる。
きちんと知っておかないと
準備に支障が起きることもあるから、
よくよく確認しておきたい。
宗旨の確認は、
菩提寺に問い合わせればよいのだが、
自分の墓をもたないという場合は注意がいる。
菩提寺に建墓するのであれば問題はないが、
別の寺院や霊園に墓を建てるという場合は、
先祖と同じ宗派で葬儀を行なう
(つまり、その宗派の信徒であり続ける)
つもりなのか、
他宗に転じる気があるのかを
はっきりさせておく必要がある。
宗旨不問の公営霊園なら
先祖の菩提寺の檀家でいることができるが、
寺院墓地に墓を建てる場合は
その寺院の檀家になることが前提とされていることが多い。
寺院墓地の広告にも
「宗旨不問」
との文言が書かれていたりするのは、
これは墓を建てる前の宗旨を問わないという意味であって、
建墓後は寺院の宗派に帰属しなければならないケースが
ほとんどなので注意したい。
自分の墓をもたず、
先祖の菩提寺とも縁が切れている場合は、
あらかじめどの宗旨で葬送を行なうのか
しっかり考えておかねばならない。
「どこの宗派でもいいです」などと言うのは、
いい加減な葬儀でいいと言うようなものだ。
アルバイトの僧侶に
うろ覚えのお経を読まれても文句は言えない。
ちなみに、
墓がなくても葬儀はできる。
葬儀の後も遺骨は自宅に安置しておいて、
四十九日あるいは一周忌などを目途として墓を建て、
納骨すればよい。
ついでに述べておくと、
自宅の庭などに遺骨を埋めると
「墓地、埋葬等に関する法律」
(墓理法)違反になるが、
自宅で保管しておくことに関しては問題はない。
最近は遺骨を圧縮して
プレートなどにしてくれるサービスもある。
それゆえ、
不幸があった(ありそうだ)からといって、
あわてて墓を探すことはないが、
葬送をお願いする寺院
(または神社・教会など)
をどこにするかということは、
平素から考えておかねばならない。
菩提寺の住職などと普段から関係を深くしておけば、
いざ葬儀という時にも
いろいろ相談にのってもらえるし、
引導や戒名についても
その人にふさわしいものを考えてくれる。
なお、
死亡が確認されたら、
なるべく早く菩提寺
(葬送をお願いする神社・教会など)
に連絡をしておく必要がある。
そうすると、
菩提寺の住職が駆けつけてきて
枕経や通夜を行なってくれることになるが、
事情によりそれができない場合は、
住職が信頼できる僧を手配してくれる。
菩提寺への連絡を忘れて葬儀社に依頼してしまうと、
菩提寺とは関係ない僧を
呼んでしまうこともあるので気をつけること。
また、
寺院によっては特定の葬儀社を指定している場合があるので、
故人が亡くなった病院と提携している葬儀社と
かち合わないように確認をとっておきたい。
菩提寺と指定葬儀社、
それに主要な親族と友人、
仕事関係者の連絡先を書き出しておくと、
いざという時にあわてないで済む。
②葬儀の会場には充分なチエックを
次に考えておくべきことは、
葬儀をどこで行なうかということだ。
自宅で行なうのか、
大阪市立北斎場などを借りて行なうのかを
考えておくことが必要である。
自宅から送り出したいと思う人も多いだろうが、
葬儀を行なうのに充分なスペースがあるかどうか、
よく検討しておかねばならない。
棺と祭壇だけでかなり広い空間が占められてしまうし、
僧侶の控え室なども必要になる。
通夜ぶるまいの場所なども考えねばならない。
とくにマンションなどの集合住宅の場合、
多くの弔問者がたむろすることや
お香の匂いなどが近所迷惑になることもある。
また、
棺がエレベーターに載せられなかったり、
階段を通せなかったりすることもあるので、
そうした面もチェックしておきたい。
自宅以外で行なう場合は、
大阪市立北斎場や寺院の本堂の他、
公共の公民館や集会場を使う方法もある。
大規模な集合住宅の場合は、
葬儀にも使える集会場をもっていることもある。
③親の葬儀に備えて確認すべきこと
ひそかに確認しておきたいことは、
親の葬送についてだ。
これが意外とわからないものだ。
菩提寺の宗旨をはじめ、
土地の葬儀の特徴や地元の世話役のこと、
それから墓の管理状況や権利関係などは
最低限把握しておきたい。
とくに離れた場所に住んでいる場合は、
土地の人間関係や習俗と疎遠になってしまうので、
いざという時にとまどいやすい。
その時になってから調べたのでは間に合わないこともある。
葬式はやったものの墓には
遺骨を入れる余地がなかったという
笑えない話もある。
親の兄弟姉妹から葬儀の仕方や墓の承継について
異議が出されることもある。
④喪服は通夜法要から身につける
喪服は通夜法要から着用する。
枕経は本来、
臨終の時に行なうものなので、
喪服などを着ていてはおかしい。
正式な喪服は
モーニングあるいは染め抜きの五つ紋などと
書いている作法書もあるが、
前述のようにもとは白い着物が
喪を示すものであった。
現在はそうした伝統が失われているので
ブラックスーッでよい
(神葬祭ではいまでも白を正式とする)。
要は慎んだ服であることが重要なのであって、
喪主だからといって
紋付きやモーニングを借りたりする必要はない。
ちなみに、
和服にした場合は、
草履の鼻緒も黒のものを用いる。
仏式の場合は数珠を持っていることが好ましいが、
かならずしもなければいけないというものではない。
逆に神葬祭では数珠をしてはいけない。
なお、数珠の形式は宗派によって異なる。
当然のことながらアクセサリーはつけない。
女性の場合は、
真珠ならよいとされているが、
理由はよくわからない。
本来の喪服の色であるためかもしれないが、
弔意を示す気があるのならつけるべきではなかろう。
男性も腕時計などは気をつけたい。
できれば金時計や派手なデザインのものは避けたい。
⑤葬送の席次、焼香の順番は
通夜法要・葬儀の席次は、
故人との関係、葬儀での役によって決められる。
ただし、
地域によって異なる面もあり、
また、
高齢者などは正座が難しいこともあるので、
葬儀社の担当者などと相談の上で決めるとよい。
葬場の状況によっては、
しきたり通りにしないほうが
焼香などがスムーズになることもあるので、
あまり堅苦しく考えすぎないことも大切だ。
焼香の仕方は宗派によって異なる
(くわしくは第二部の各宗派の草を参照)が、
決められた時間の中で多人数が行なわなければならないので、
僧侶などから特別に指示がない場合は、
一回焚くだけにしておくのが無難である。
導師に対して一礼をし、
本尊を拝して香を焚き、
再び本尊を拝んで自席に戻るというのが
基本的な作法である。
参列者の間に香炉を回して行なう回し香炉の場合も、
本尊を拝してから香を焚き、
もう一度本尊を拝する。
焼香の順番は、
喪主・配偶者(喪主になっていない場合)・
故人の子ども・父母・故人の配偶者の父母・
孫などとなっているが、
これについても無理に順番を守ろうとせず、
柔軟に対応することが式を滞らせないコツといえる。
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